日本小児神経学会
日本小児心身医学会
日本小児精神神経学会
滋賀県におけるいじめと関連した中学生の自殺が表面化した頃より、全国で子どもの自殺『の報道』が続いております。この状況に関連して、事件の報道をされる各社のみなさまにご配慮、ご検討いただきたいことがありお願いさせていただきます。
子どもの自殺が短期間で連続する事態は、尋常の状況ではありません。ご承知のように、自殺は心理的に連鎖する可能性があり、自殺の報道に関してはその点に関する配慮が求められると考えております。世界保健機構(WHO)も、2008年、「自殺予防 メディア関係者のための手引き」を刊行し、自殺に関する報道における留意事項について具体的な提言を行っております(同封別紙ご参照)。
自殺報道は、自殺の準備状態の心情にある人たちに対して、自殺行為の実行を促す影響がときにあるといわれております。自殺を考えている人であっても、当然のことですが、自殺に対する躊躇や迷いがあります。そうした人たちが自殺報道を頻回に見聞きすることは、その人たちに『自殺を考えているのは自分だけではない』、『実行した人がいるのだ』、という思いを持たせてしまうかもしれません。こうした人たちは、もともと心理的支えがない状態だからこそ自殺に傾いている訳ですから、このような思いは、自殺を思いとどまらせるのではなく、『自分もそっち側(自殺した側)に行こう』、『行ってもかまわない』、という思いを持たせてしまうことも考えられます。
子どもの自殺に関する最近の報道は、大津のいじめの悲惨さからか、子どもの自殺事件を全ていじめと絡めようとし、あるいは、少なくとも、自殺の背景にいじめがあるのではないかという視点から、内容的にいじめの話題が中心となりがちなような印象があります。今、報道されている子どもたちの自殺が、全ていじめが関係しているかどうかは不明です。いじめが関係していない事例が含まれている可能性もあると思われます。もちろん、いじめは重要な問題ですが、このような視点は、逆に、「いじめが関係なさそうだ」ということになりますと、一転、その自殺事件に対する関心を低下させ話題にしない姿勢につながり、結果として自殺報道が子どもたちに与える影響に対する配慮が乏しくなってしまうように危惧いたします。
いじめの報道自体は、学校や子ども集団に潜在する諸問題を考えさせる役割があると理解しています。しかし、いじめがあろうがなかろうが、子どもの自殺が続いていること自体の異常さを問題視する姿勢も大切なように思われます。どうぞ、こうした状況のご理解のもと、WHOの手引きも踏まえていただきながら、自殺報道の方法、内容をご検討いただくとともに、自殺を密かに考えている子どもたちへの適切なメッセージ(死んではいけない)や情報提供(誰に相談すればよいのか・悩んでいることを相談できる場に関する情報の提供(例えば、相談窓口の電話番号など)などの具体的な対処行動に関する情報)や教育関係者・保護者の方々への注意喚起などをお考えいただければ幸いです。
[ご参考]
以下のサイトは、自殺予防及び自殺報道に関してご参考にしていただける内容を含んでおりますので、ご紹介させていただきます。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/link/kanren.html
内閣府自殺対策概要(WHOの自殺防止手引きへのリンクあり)
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html
自殺予防総合センター
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/manual/gyosei/gyosei29.pdf
群発自殺とメディアに関する記載(防衛医大・高橋祥友教授)
※本件に関するお問い合わせは以下にお願いいたします。
日本小児精神神経学会事務局 jsppn[アットマーク]arcmedium.co.jp
日本小児神経学会、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会は、子どもの発達や行動・心の問題・心身相関・神経学的な問題について研究・対応することを目的とした学会で、日本小児科学会の分科会となっております。